房総半島では、台風15号の影響による停電が長期化しています。15年ほど前、現在よりまだIT機器への依存度が高くなかったころ、離島での勤務中に約3日間の停電にあったことがあります。離島なんでそんなこともあるとあきらめがつきますが、それでも長期間の停電はとても不便でした。停電による不便もさることながら、熱中症での死者も出るなど、二次的な被害の拡大が心配です。一刻も早い復旧を願います。
電気のような生活に切っても切れないライフラインの途絶は、上記のように生活弱者の命を脅かすこともあり、とても重要な問題です。我々のような小さな医療機関も、医師会レベルで協力して災害時の対応などを定期的に確認しています。また、当院では在宅酸素や人工呼吸器といった生命維持に不可欠な機械を自宅で利用している方もいらっしゃるため、発電機を在庫しており必要時に貸し出す体制をとっています。
災害時の長期間の停電以外でも、雷や事故等で一時的に短時間停電や断水が起きることがあります。一般市民にとっては不便であり、このような時クレームを出す方もいらっしゃいます。消防車や救急車と同じように、ガス会社も緊急自動車をサイレンを鳴らしながら走らせることが認められており、社会全体がライフラインの途絶に関しては神経をとがらせた対応を行っています。
救急医療も同じように、社会全体にとってなくてはならない(ないと困る)ものです。でも、タクシー代をケチり救急車を読んでしまうことは必需品と呼んではならず避難されるべき行為であることは理解されると思います。
当院が主に提供している在宅医療について、この文章をお読みになった方は、生活必需品と感じられるでしょうか?それとも贅沢品と感じられるでしょうか?
病院まで介護タクシーを頼む必要がなく、待合室で待つ必要もなく、家で待っていれば医療関係者が家にやってきてくれます。外来診療で月1回の受診であれば、保険者負担分、自己負担分、移動経費、薬剤費など合わせると全部で2万円ぐらいかかるのに対して、在宅医療にすると8万円ぐらいかもしれません。しかし、自己負担だけでみると、1割負担の高齢者では移動経費を含めた負担額は外来通院と月2回の訪問診療ではほとんど変わらなくなる場合が多いです。
その上で病状が変われば家にいながら電話等で主治医に相談ができ、調子が悪くても家でそのまま診察を受けられます。
世の中には在宅(zaitaku)医療は贅沢(zeitaku)医療だと言う方もいらっしゃいます。
ある高所得者で会社の社長を続けながら癌の在宅療養をされていた方は、全額自費負担の医療に生きるのぞみをつなぐため保険適応の在宅医療と訪問看護を節約されました。こういう方は普通に在宅医療・看護を受けると、月の自己負担が15万円を超えてしまったりするため、年金生活者(低所得者の医療費自己負担の上限8000円)に対してかんたんには訪問診療を受けることができません。
対して、上記の通りお金がないからという理由で在宅医療を選ばれる方もいます。そういう方も、介護保険の利用を極力抑えて介護を受けることを我慢していたりします。
このように、収入の状況などによって、お金をかけても通院の手間を減らしたい理由の方(贅沢)と、日常の費用を極力抑える目的(節約)で選ぶ方、単に病院に行くのが嫌、などなど患者さんの受診動機も様々です。(注:要介護状態で通院が困難なかたしか訪問診療は受けられません)
本来であれば自宅で安心して暮らしていくための制度、ライフラインの一部、医療インフラとしての在宅医療であるべきです。将来、生活必需品としての在宅医療の提供がすべての要介護者の選択肢になる日が来るべきと当院は考えています。